いろはにほへと





ーどうして、こんなにまだ痛いのでしょう…

自分の胸に手を当てて、ぎゅうと掌で押し付けてみても、一向に痛みは引いていかない。


「中条さん、大丈夫?」


HRが始まる前、騒ぎを知った上で澤田が席まで来てくれて、悲壮感漂う私を下から覗き込んだ。

椅子に座って、机しか視界には入っていないのに、私の目に机は認識されてなくて。


「…あれで、良かったんですね…」


声にならない声で、確かにそう言った。


「ーえ?」

「席についてー」


澤田が訊き返したと同時に先生が教室に入ってきて、結局彼女には伝わらなかったけれど。



ー良かったんです。


痛みに顔を顰めながら、真っ直ぐ黒板を見る。



トモハルは、私のことを何とも思っていない、そんなこと、分かっていたんだから。

女遊びが激しい訳じゃなくて、私との報道がそもそも間違いなんだから。

だから、トモハルに女の人がいたって、ちっともおかしいことではない。

むしろ、私に恋をレクチャーしてくれようとしたんだから、いない方がおかしい。


トモハルと私は、一度だって会ったことも話したこともない。

やっぱり、それで、良かったんだ。