いろはにほへと


「おはようございます。」



葛城先生は、恰幅の良い中年の男の先生だ。


今迄生活指導されることのなかった私は、葛城先生との接点は殆ど無かったが、今回の件では非常にお世話になっている。

本当の事を知っている一部の先生達の内の一人でもある。

しかし、こうして一対一で話すのは初めてだった。



「福井先生から、中条は毎朝早く来ていた、と聞いてね。もしかしたらいるかもしれないと思って、覗いてみたんだ。気分はどう?」


福井先生とは、担任の事だ。
葛城先生は、私が謹慎が解けて今日から登校してくるのを、気に掛けてくれていたらしい。


「…悪くはありません。」


私は手にしていた黒板消しを置いて、葛城先生と向き合った。


「そうか…」


私の曖昧な答え方に、葛城先生は頭を掻いて、息を吐く。


「ひとつ、確認なんだがー」


腰に片手を当てて。


「中条は、芸能界で活躍することを望んではいないんだな?」


両親の前では、訊かなかった問いかけをした。