いろはにほへと




「行ってらっしゃい。」

「行ってきます。」

「……行ってきます…」



母に見送られながら、私は父の隣を歩く。

久々に袖を通した制服は、きちんとハンガーにかけられてあったお陰で、皺一つなく、気持ちがしゃんとするようで、緊張に拍車がかかる。



「…ひなのさん。」


疲れる程ガチガチになって歩く私を、父が立ち止まって呼ぶから。

私も立ち止まって、父を見上げた。


「今日も、良い、お天気ですよ。」


その言葉と視線につられて、私も空を見た。




「ーはい。」



ここ数日、晴天が続いていているらしく、今日の空も青く広がる。

筋のような雲が、ヒューと横に伸びている。



「ねぇ、ひなのさん。」


父は、ゆっくりと一歩を踏み出しながら、私を見ずに口を開いた。



「物事は、どれか一点に集中すると、それしか見えないものですよ。」



「ーえ?」


父が何を言わんとしているのか、分からず、訊き返すと、緩やかな風が前方から吹いてきて、長い前髪を揺らした。