いろはにほへと



「…………消して、くれますか…?」



言葉にするだけで、桂馬がぼやける程。

その重みが、いつかのトモハルの。

ここにはない筈の香水を思い出させる程。

まだ、こんなにも、真新しい、傷痕。



「忘れさせて…くれますか…?」


何度も何度も会ったのに。

なんどもなんども触れたのに。

幾度も幾度も想ったのに。


全部、無かったことにしてくれ、なんて。

社会はなんて、残酷なことを言うんだろう。


声が、好きだった。

底抜けに明るい性格が羨ましかった。

私を見てくれた。

私一人を見てくれた。

ちゃんと向き合ってくれた。

私に、世界を教えてくれた。


でもそれを、全部、忘れなくちゃいけない。


太陽は皆のものだから。

誰か一人の。

ましてや、私なんかの、ものじゃないから。


トモハルと私は正反対。

太陽と月のように。

姫子さんが、いつも、私に読んで聞かせてくれた絵本みたいに。

永遠に、出逢うことはない。