いろはにほへと


暗い部屋と相乗効果で、桂馬の瞳も、髪も、濡れたように黒く憂いを帯びたように見える。


生まれてこの方ー昨年の夏まではー酷使されたことのない心臓が、肉眼で分かる程、跳ね上がっているような感覚。

熱に浮かされた時のように、身体は熱く、上手に答えられる自信は皆無だ。


なのに。

それなのに、記憶は、トモハルを引っ張り出してくる。


「…………」


「ーただ、頷けば、楽になるって言ったじゃん。」


掠れるような。

敢えて抑えているような。

焦れてるような。


そんな、口調で。



「一番好きな人と結ばれたからといって、幸せになれる訳じゃない」



桂馬は、そう言った。