いろはにほへと


《何の為の携帯だ?何の為の連絡手段だ?なんで電源切られてんだ?死んでんじゃないかって心配するだろーが!》


捲したてる桂馬の声は、久しぶりだけれど、すごく怒っているけれど。


「ああああのあのあのあのあのあのっ」


何故だか、少しも変わらなくて、ほっとしている自分がいる。


《ーひなの部屋、二階?》



急速に光が沈んでいく。

トモハルと再会したあの日。

昼は長かったのに。

あっという間に、時は過ぎて、太陽が落ちていくのが早くなった。


「え?、あ、はい。」


もう、夏じゃないんだ。

それどころか、秋もすぐ過ぎて、冬に入るんだ。


トモハルと、会えなかった冬に戻るんだ。


そしてこのまま、もう二度と、会えないことになるんだ。

一度も、会ったことのない人になるんだ。


《窓の鍵開けとけよ。》


「へ?!」


言われるがまま、締め切ったカーテンに近付いてー正確には、さっき澤田をこっそり見送ったせいで、僅かに開いているー窓の鍵に手を伸ばし、それが不用心にも開けっ放しだった事実に気付いた所で。