いろはにほへと


ー澤田さん…もしかして、少し、怒っていたのでしょうか。


閉めたカーテンの隙間から、澤田が背を向けて駅の方へと歩いていくのを、目で追いつつ、ふとそう思い、不安に駆られる。



「ひなの、折角頂いたんだから、食べる?」


「………」


見送りから戻って来た母が、さっき置いていったお盆の上のケーキを指差したが、私の顔を見て、顔色を変えた。




「ーどうしたの?」


「…澤田さん……怒っていましたか…?」


「……どうしてそう思うの?」



母は、ベッドの上にきて、私の隣に腰を下ろす。



「………早く…帰ってしまいましたから…」


母とは顔を合わせず、俯きながら、じわり浮かぶ馴染みの感触。


「ーもう!」


母はそんな私の肩を抱えるように腕を回して、背中をさすった。