いろはにほへと

積んだプリントを整える。


「刷り込み…」


私の頭の中に浮かぶ、あひるの群れ。

ガァガァと鳴く。


ーそう、なのでしょうか…


初めて見た人が、トモハルだと思った。

だから、自分の親もトモハルだと思った。


そういう風に、勘違いしていたから。

まさか、間違っているなんて、塵ほどにも疑わなかったけれど。



「ー今日は、もう、行くね。」


呆然としている私を横目に、澤田がすっと立ち上がった。


「え、もう…?」


名残り惜しさを感じて、澤田を見上げると、彼女はスマホをぐいっと再び突き出したので、私はそれを受け取る。


「今直ぐにでも、、桂馬くんに連絡してあげて。きっと、すごい待ってる。」

また、来るから、と言い残して、澤田が部屋を出ようとすると、ちょうど母がケーキを乗せた盆を運んでくる所で、それを澤田はやんわりと断って、帰って行った。



「あらぁ、残念ね。また来てくれるかしら?」



母の呟きを、私は冷たい機械を握りしめながら、どこか上の空で聞いた。