いろはにほへと



澤田は私の前で腰を下ろして。


「目、腫れてる…」


益々心配そうな声で、言った。


「中条さん、大丈夫?」


そんな澤田の顔を私は見つめ、そして目を伏せる。


心が、痛い。


「…恋って、こんなに疲れるものなんですね。」


息の吸える水槽に入れられたような。

実際には、怪我も何もしていないのに、苦しいと感じる。

もがいても、もがいても、出ていけない。


「でも中条さんの場合は、相手が相手だったから、今こんな風になってるだけで…普通の恋はそんなんじゃないよ。」


澤田は、私の肩を優しく掴んで、揺する。



『普通の恋』じゃない。


そうなんだ。

納得できる理由だ。


「そうですね…あ、でも、マスコミの方々はもうぱったりと来なくなりましたし、今は本当に、静かで…」



目を開けて、安心させるように、出来るだけ口角を上げるけれど、澤田の表情に何故か緊張が走った。



「中条さんさ…あれから、、桂馬くんから連絡きてる?」


「桂馬、くん、、、ですか?いえ…」


「本当に?スマホには?」


澤田が急くように訊ねることに、戸惑いながらも、首を横にして、机の上に置きっ放しになっていた機械を指差す。