『那遥。中条の両親は、お前が居なければ話し合いには応じない、と言ってきた。』
『いいか、今度の事はお前の私情を微塵も挟むな。もしそうだとすれば終わりだと思え。』
『那遥の感情なんてどうでもいいんだ。要は商品価値の話だ。』
『このまま、歌いたいんだったら、何訊かれても黙ってろよ。』
『万が一、お前に恋愛感情がありましたって言ってみろ。こっちも向こうも最悪の結末だ。』
『10年やってきてるなら、分かってるよな?どうすれば一番賢いか。』
最後、見た、ひなのは、どんな顔してたっけ。
泣いていたっけ。
それとも、睨んでいたっけ。
俺の事、憎いと思ったかな。
そもそも、俺の事なんて、どうも思ってなかったか。
『妹のように、思っていましたし、今もそう思っています。』
あんなことして、あんな風に逃げた俺を、汚いと感じているかもしれない。
『自分に嘘を吐く人間に、大事な娘を預けるわけにはいかない。』
ひなのの、父親は、賢い。
賢くて、愛情深く、正しい。
ひなのは男が嫌いだった。
ひなのの唯一好きだった男は、父親だった。
俺は、あんな人みたいにはなれない。
きっと一生。


