いろはにほへと

無風だ。



風が珍しく少しも吹いていない。


空気の流れが止まっている。





「で、でも…桂馬くんに、そんな気持ちがー」


真っ直ぐすぎる瞳に、吸い込まれてしまいそうで、ついに私は目を瞑った。


「気持ちなんてなくていいよ。その内その気にさせてみせるから。」


自信たっぷり、余裕綽々な説得に、唇を噛みしめる。



「あんたは真面目すぎるんだ。初心者の癖に。」



「……え?」


短い溜息と共に降ってきた言葉に、私は強く閉じた瞼を恐る恐る開いた。



「色々難しく考える事を何もかも全部止めて、頷いたら、楽になるのに。」



そう言う桂馬の顔は、見た事がない位、優しい顔をしていた。



「……けど…今の恋を忘れる為に、桂馬君に協力してもらうのはなんか違う気がしますし……やはりお互いそういう気持ちじゃなくそんなこと…」



なんとなく照れてしまい、もごもごと口ごもると。



「はあ?」



何言ってんの、今更。と優しさから一変、いつものような
馬鹿にした態度に変わる。



「言わなかったっけ?俺はちゃんとあんたが好きだよ。」