いろはにほへと



肩を縮め、髪をこんなに顔の前に持ってきているというのに、自分だと気付くなんてどこの誰だろう。



隙間から、恐る恐る覗けば。



「あ…」


「やっぱり!中条さんだ!」




同じクラスで、キラキラ女子で、ルーチェファンで、唯一会話するようになった澤田が立っていた。



「さ、わだ…さん…ど、してここに…」



ここは、完全に高校から離れているというのに。

驚き過ぎて、手の力が抜け、鷲掴みにしていた髪の束が、ばらけた。


「あれ、知らなかったっけ。私の家ここら辺なんだよ。っていうか、中条さん泣いてるの?!」



「あっ!これはその、あの…」




指摘されて、パパッとまた髪の毛を集めて隠そうとするが、時既に遅し。


「っ…」



知らない街で、知っている人に出くわしたことの安心感も手伝って、ぼたぼたと大粒の涙が零れ落ちた。



「中条さん…私、ちょうど今、予備校の帰りなんだ。良かったら一緒にご飯食べに行かない?おごったげるから。」


「!そんっなっ…わ、わるい…」




止まらない涙に無駄な抵抗をしながら、遠慮するけども。




「良いから!話聴くよ。」





見かけによらない力で、澤田は私の手を掴み、ずんずんと歩き出した。