いろはにほへと

だから、頑張ったら、トモハルが笑って、喜んでくれるんじゃないかと、心のどこかで期待していた。


現実はそんなに甘くなかった。


甘くないどころではない。

むしろ苦かった。



怒っている、なんて。




ー車、鍵大丈夫だったかな…



よろよろと土地勘のない通りを歩きつつ、思考が別の方向へと飛んだ。

いや、行き詰まったから、二番目に心に引っかかっている事へ、無理矢理転換させた。



が。車のことを考えると、直ぐにさっきの光景が思い浮かび、結局またふりだしに戻る。



ー怒ってた…



手首には掴まれた感覚が残っている。



怒りの意味を知らない自分は、一体どうすれば良いのか。


無くなって楽になるはずだった感情は、益々心を締め付ける。





と。




「あれ?」




前方から、高い声がして、反対側から歩いてきた誰かが立ち止まった気配がした。



自分に対してじゃないだろうと勝手に決め付け、通り過ぎようとすると。




「中条さん?」




まさに自分の名前を呼ばれて、ビクっと身体が強張った。