いろはにほへと


「大丈夫?」


彼氏役(名前を覚えていない)の人が、さっきと同じように声を掛けてくれる。


立ち上がった私は、小さく頷いた。




ー『今日だけは、あいつのことを思い出して。』



メイクさんが、私の顔に粉を叩き、唇にルージュを引いた。




ー『あいつが、ここに居たらって思うんだ。』




「スタート!」



定位置に着いた私は、スタッフのサインと共に、屋台のセットの通りを、相手の人と並んで歩く。



ートモハル。




心の中で、その名を呼んでみる。



一歩進むごとに、少しだけ触れる手と手。



ー今、どこにいるんですか。もう、ずっと会えていないです。



他愛ない話をする彼に、無理をして笑おうとするメイ。


ーでもそんな風に会いたいなんて、思うことが、果たして自分に許されるのか、わからないんです。むしろ、許される筈がないって思います。


やがて、彼は意を決したように、メイの手を掴んだ。