「…ヒント、ください…」
今迄の撮影では、桂馬がずっとそばで助けてくれていたのに。
そもそも素人の自分が、演技なんて出来る筈がないのだ。
なのに、監督のアバウトな指示を理解しろ、なんて程がある。
ていうか、恋愛初心者に対して、こんな設定の撮影をさせる方が間違ってる。
……ということは。
結局トモハルと早川さんが悪いという結論に行き着く。
「ヒント、ねぇ…」
桂馬はお茶を喉に流し込みながら、私がさっき居たセットの場所へと目を向けた。
「苦しいかもしれないけど…今日だけは、あいつのことを思い出して。」
「ーえ?」
さらり、簡単に出されたヒントは。
「あいつが、ここに居たらって思うんだ。それから、耳にタコが出来る位聴き込んだ『蛍石』の歌詞をよく頭に思い浮かべるんだ。」
聞くだけで、胸が鷲掴みにされる程、痛いことだった。
「はい!始めまーす!」
スタッフの掛け声がして。
「最期だと思って。」
桂馬の掌が、一瞬、肩にポン、と置かれて直ぐに遠のいていった。


