いろはにほへと


チクリ、胸の奥が痛む。


思い出すだけで、これだけ痛みが伴う。

重症だ。

恋とはなんて病なんだ。

一度かかってしまったら抜け出すのに、こんなに苦労するなんて。



「ぎこちなくて良いんだけど、、なんつーかな、違う意味でぎこちなくして欲しいんだっ。」



監督の注文する意味もわからない。



「ああもう!休憩!5分後また再開するから!」


終盤だからか、熱の入り用も最初とは違くなってきた気がする。



「…わからないです…」


途方に暮れた私は、がっくりと肩を落とし、下駄に慣れない足取りで、よたよたと歩く。

そして、赤いリゾートチェアに腰を降ろし、さっき渡されたペットボトルのお茶を飲んだ。


「苦戦してるね」


ここ数日で、大分耳に馴染んだ声がして、顔を上げると、予想通り桂馬が立っていた。



「…おかげさまで…」


「ふはっ、なにそれ。」


意味不明な私の回答に、桂馬が噴き出す。