いろはにほへと

その日の撮影は昨日よりもずっとスムーズに進んで。

ど素人の私が、現場にいる全員の足を引っ張ってしまっているのは変わらないのだけど。

それでも、昨日とは別人のような私。


理由は勿論、桂馬がよくフォローしてくれたり、ヒントをくれたりして、私を上手いことコントロールしてくれているおかげ。


私としても、昨日の出来事について、物申したい気分になっていたのだが、撮影に没頭していると、時間はあっという間に過ぎて行き、それどころではない。


場所を移動しての校舎の撮影もひと段落し、スタジオに戻る頃には、疲れきっていた。


不思議と満足感や達成感みたいなものもあって、フワフワとした気持ちで車に乗り込む。


「眠たそうな顔して、余裕だね。」

「なっ」

先に乗っていた桂馬が、またしても、からかうように声を掛けてくる。


「なんで、それが余裕に繋がるんですか。疲れただけです。」


軽く口を尖らせてそっぽを向く。


「つまんないの。もっと動揺するかと思ったのに。」

「え?」


何のことかと思わず振り返って桂馬を見れば。


「忘れちゃった?昨日のこと。」


夕陽が、そろそろ落ちそうな。

オレンジ色に染まった外の世界から、遮断された空間で。


彼は、きれいに微笑んだ。