いろはにほへと

腑に落ちない顔で、スタッフから受け取ったお茶のペットボトルを握りしめる私。


「良かったじゃん」


背後から声が掛かったと思ったら、ふわり、頭を撫でられて、直ぐに離れていった掌。



「桂馬、くん…」



振り返ると、桂馬は涼しい顔して、お茶を飲んでいる。


「ただ、セリフが敬語になっちゃってたけど。音は入れないし、編集でどうとでもなるだろうから安心しな?」



「…嘘、ワザとついたでしょ…私のために…」


言った後で唇を軽く噛む。


桂馬は、さっき確かに、家の前で待ってると言った。


けど、実際には居なかった。


シナリオなんかすっとんじゃっってて、真っ白になってしまったけれど、よくよく思い出せば、いや、今冷静になって思い返してみれば、要求されていた演技の中、桂馬は先に行ってしまっている設定ではなかったか。




「何のこと?」


しれっとした顔。

だけど、満更でもない顔。



「撮影サクサク進めないと、脱片想い出来ないよー?」


「なっ…!そんな大きな声でっ!」


それ以上の追求を避けるかのように話題を逸らして、桂馬は私に背を向けた。