いろはにほへと


「いい?あんたは、スタッフの合図が来るまで、靴を履いているふりを続ける。GOサインが出たら、俺が家の前で待っているからそこまで出てきて。」



配置につく寸前、桂馬がすれ違いざまに耳打ちしていく。

耳を掠める息が、昨日の図書館での距離を連想させてしまい、反射的に、思いっきり飛び退いてしまった。


そんな私を桂馬は一瞬驚いたように見たが、直ぐににやっと笑って、通り過ぎて行った。



ーお、落ち着けー、私。


すーはーすーはーと息を整え、位置に着く。


今日はトモハルは傍に居ない。


早川さんがさっき声を掛けてくれたけど、昨日みたいな失敗は許されない。撮り直して居る時間はもう、ないのだ。