ー桂馬となんて、もう口効かないようにしよう!
短絡的かもしれないが、それしか他に対抗策が思い浮かばず、私は思いっきり身体の向きを窓側に向けて、段々と緑が増えていく景色に意識を集中させた。
そろそろ猪の飛び出し注意の看板が見えてきた頃。
耳に何かが触れて。
「ひ…」
声が上がる前に、曲が流れ込んできた。
それは間違いなく、今度のルーチェの新曲、『蛍石ーフローライト』で。
驚いて隣を見ると、桂馬は何食わぬ顔をして前を向いている。
くぃと引っ張られると、イヤホンが外れてしまいそうになり、ついつい、私の身体も桂馬に寄る事になる。
私は小さく頬を膨らませながらも、トモハルの唄声にすっかり聴き入ってしまい、今ここに澤田が居たら、未発表未発売のレア度に、卒倒するんじゃないかな、と考えていた。
胸を鷲掴みにされたような、切ないバラードは、夏に似つかわしくないのだけれど。
今の私には何故かしっくりきてしまう。


