いろはにほへと

翌朝5時。


家の前に止まる1台のハイエース。昨日早川さんと乗ったのとはまた少し違う。



「本当に…来たんですね…。」




カーテンの隙間、外の様子を窺いながら、私はそっと呟いた。


父はもう起きていることだろう。


支度を整えていた私は、階段の軋む音を最小限に抑えることに神経を使いながら、なんとか玄関に向かった。




「ひなのさん」



静かに静かに、靴を履いていると、背後から名前を呼ばれて、驚いた。


別に悪い事をしている訳ではないのに、身体がびくっと震えた。



「あ、お、おはようございます。」



振り向くと、父が相変わらず、にこやかにそこに立っていた。


「おはようございます。昨日も早かったのに、今日はもっと早いなんて、大変ですね。」



労わるような優しい言葉に、ぎゅっと唇に力を籠める。



「……はい。私の演技が下手なので、撮影にすごく時間がかかります。なので、なるべく早く行かないと…。」


そう言いながら、また靴を履く作業に戻る。