いろはにほへと

心臓が早鐘のように鳴る。


桂馬の視線が強く、目を逸らすことが出来ない。


何を考えて、私を見ているのかが理解できず、にこりともしない桂馬は恐ろしい。じっと、ただじっと、私を見ている。



やがて、私の手の甲に重ねられたままの、彼の掌に重心が傾き。




「け…ま…く…」



近づく距離に動揺し、声が、掠れて出てこない。


キラキラ男子に息がかかる程近寄られて、自分の目を覆う前髪もない絶体絶命のこの状況。



やがて。



「あ…」



彼の瞼が伏せられて、長い睫毛が映ったと思うと。



乾いていた筈の自分の唇が、湿った。




長い。



長く、感じる。



自分のものではない、冷たい感触に。





「……!」




声も出ないほど驚いて、自覚したと共に、相手の胸を押した。




僅かに掛かっていた体重は、あっさりと退いて、私は信じられないものでも見るかのような目つきで、桂馬を見た。



相変わらず、声は出てくれない。