「いやぁ、今年は受験生だから、来ないんじゃないかって思ってたけど。そう!来たんだね!」




青柳さんのご主人は、バットを下に置くと、渋皮色の甚平をはためかせ、小走りに駆け寄る。


そして、私に手を差し伸べて立ち上がらせると。




「今日着いたのかい?疲れたろう!さぁさ、中でお茶でも飲んで行きなさい。」




くるりと庭に向けていた身体を、家側に反転させ、縁側から中に入るよう促した。




「あ、え、えっと―」



芝生の上に手を着いて、座り込んだままのトモハルを心配そうに振り返ると、ご主人はにこりと笑った。



「どこの馬の骨か知らないけど、ちゃんと退治しておくから、安心しなさい。」




眼鏡の奥の瞳が、きらりと光った気がして、私は背筋が凍る。




「いや、そのっ…」



「覚悟!」




私が止める間もなく、ご主人は再び地面に置いたバットを拾いトモハルに飛び掛った。



成す術もなく、スローモーションのように振り返って。


70を過ぎたとは思えない、その機敏な動きを見つめながら。




―確か、ご主人は、剣道の段持ちだったんでしたね。



どこか、他人事のように思い出し、納得した。