いろはにほへと


何かを捜しているような声と足音が遠退いていくけれど。






ガサガサガサ!!







草を掻き分けるような音は、どうも、庭の方から聞こえてくるように思える。






「犬…?」





開いた戸の向こうには縁側が続いていて、その先に荒れ放題の庭がある。







それが、動いたように見えた瞬間。






「うわぁっ!?」






ラジオのBGMが終わりへと向かっていく中で。





草むらから突如現れたサングラスをかけた男が、姫子さんの家の庭で、私を見て驚きの声をあげた。




余りに驚いたのか、反動でサングラスが落ちる。







「おわっ…!?」




「………」





その一部始終を脚立の上から、ただ無言で見つめた。





赤茶けた色の髪。






「あなた―」






ある事に気付き、口を開きかけた瞬間、さっきまで流れていた曲のボリュームが絞られ、お姉さんがコメントする。






≪はい、ルーチェの、『泣き空』でした!いやいつ聴いても良いですねぇ!失踪中のハルさん、スランプが原因だと言われてますけど、ファン皆待ってるんでね!早く帰ってきて、また良い曲作ってくださいね~!!!!≫