音を下さい…。一歳になっても、物音で反応することもなく、やっぱり聞こえていないんだと思い込んでしまった。耳が聞こえないとゆうことは言葉も話せない。でも命は奪われなかった。タケ君の言う通り産まれてこれただけで幸せだったのかもしれないと考えが変わった早紀だった。早紀とタケ君は元気の耳になってあげようと決意した。お店も順調に進み、早紀は忙しい時だけ仕事をして、他は元気と過ごす日々。せめて文字が書けたら元気の思っていることがわかるのに。子持ちの友達は、みんな泣き声がうるさい、なんて言う。普通に育っているだけでいい。生活に追われるのは結婚すれば嫌でも付いてくるものなんだと、家に居る時間が多いと考えてしまう早紀。学生の頃、風俗で働くまで経験した苦労。でも今は大切なタケ君と元気が早紀には居る。新しい家族の中で今までの人生で、一番幸せを感じる早紀だった。幸せの中、闇に落とされるかと思ったら耳の聞こえない元気が「ママ」と呼んだ。早紀は空耳だと思いながら元気に話しかけると、二歳になる元気が「ちっち」と声が出た。早紀は涙が溢れ出る。「ちっち」とは早紀がおしめを換える時に「ちっちしたの?」と元気に言っていた言葉。タケ君にすぐ電話して話したことを伝える。耳が聞こえているのかは、わからない。病院に行って確認してもらう。二言しか話さなかったけど、確実にしゃべった。先生にそのことを言うと、今まで聞こえなかった耳が聞こえるようになっていると、検査の結果わかった。神様に心から「ありがとう」と言えた瞬間だった。



