苦難を乗り越えて

早紀の命優先…。明らかにまだ危険な状態ではあった。何かあればお母さんの命を優先します。何を言われても諦めない早紀を見て、タケ君は支え続けた。初めて自分と一体になった命。愛する人との愛の結晶。妊娠九ヶ月に入っても治まらないつわり。点滴を打つ毎日に肌は耐えられないのか、紫色になっている。早紀の体なんてどうでもいいから、無事に産まれてきて。願うこと、つわりを耐えることしかできない早紀。つわりの辛さを変わってあげれない、頑張れしか言ってあげれないタケ君。毎日陣痛のように痛むお腹。痛さがピークにきた時、頭がでてきた。予定より二週間早い。分娩室に入り、タケ君はしっかりと手を握って「もう少し、あと少し」と出産に立ち会った。「力入れないで下さい」と看護婦が言う。痛いんだから力入っちゃうんだよ。と苛立ちつつも、二千グラムの男の赤ちゃん誕生。明らかに小さい。声がでない。ここまで頑張ったんだからもう少し頑張れと早紀は願う。生まれてから五分で、やっと泣いてくれた。今までに体験したことのない痛みに耐えることができたのは、タケ君の温かい手と赤ちゃんの生命力のおかげだと早紀は思った。早紀は妊娠してから八キロも痩せてしまったが、命は助かった。赤ちゃんも小さかったが、保育機の中で、すくすくと育っている。先生は奇跡に近いとまで言っていた。日に日に元気になっていく赤ちゃんをみて、早紀とタケ君は元気であれば他に何も望まないと“元気”と名付けた。命の大切さと出産の苦労を経験し、命の誕生とゆう喜びを感じた早紀とタケ君だった。その後、早紀は一週間で退院できたが、元気はまだ保育機の中。毎日顔を見に早紀とタケ君は可能な限り二人揃って病院に通った。産まれてから三ヶ月で、やっと退院できた元気は、初めての我が家で目をキョロキョロさせながら育っていく。ある時、病院の定期検診で、耳が聞こえてないかもしれないと先生に言われた。普通で良かったのに。早紀は自分に原因があるのだと責めた。でもタケ君は「命を助けるのと引き換えに神様は音を奪ったって思えば命は助かったんだし、よしとしないと」簡単に割り切れることじゃない。どうして昔から幸せが来たと思えば、すぐに闇に落とされるんだと心に大きな傷がついた早紀。タケ君はいつも早紀はマイナスに考えすぎる。なんでもプランに考えないと。ってゆう。確かにそうかもしれない。でも耳が聞こえないなんて。