何話してるのかな…。家のことを気にしつつ仕事へ向かった。帰宅するとまだお父さんが居た。「何してんの?早くどっか行ってよ」何も聞こえないと言わんばかりの鼻歌。信じられない。早く居なくなってよ。と思いながら夜ご飯の支度を始める早紀。テレビを見る小さな背中のお父さんが段々可哀相になってきて三人分の夜ご飯を仕方なく作った。タケ君が帰ってきて、朝どんな話しをしたのか聞いてみた。ここにずっと居てもいいと話しをお父さんにしたとゆう。「勝手なことしないでよ」と早紀はつい、きつく言ってしまった。そんな話しをしていると、トイレの方から何か倒れた音がした。早紀とタケ君は音のしたほうへ行った。お父さんが倒れている。息が荒い。思わずお父さんとは呼んでいなかった早紀が「お父さん」と叫んでしまう。タケ君は救急車を呼ぶようにと早紀に伝える。泣きながら救急車を呼び、お父さんは病院へと運ばれた。会うまでは死ねばいいのに、とまで思っていたはずなのに気付いた時には神様に助かるようにと祈っていた。お父さんは早紀が産まれて何年か後に女を作って出て行った。タケ君のように浮気ではなく、本気になってしまったのだとお母さんは言っていた。お母さんはいつもお父さんではなく自分を責めていた。お母さんは結婚して早紀が生まれてから、オシャレもしなくなって、家のことだけやっていればいいと思い込み、お父さんのことをちゃんと見ていなかった。夜の生活もさぼって、お父さんの気持ちを考えてあげれなかった。早紀がタケ君と付き合った時に、そう話して早紀はそうならないようにと、教えてくれた。お父さんはガンで病院に運ばれてすぐ亡くなった。これでいつもの生活に戻る。これでいいんだと早紀は自分に言い聞かせて、悲しみを紛らわせた。理由が何であれ、子供を捨てたことには変わりない。早い死だったけど、自分の子供が死に際、側に居たことは、お父さんにとっては幸せなことだっただろう。タケ君はきっと、お父さんが早紀の前に現れた時、自分の子供と自分、早紀とお父さんを重ね合わせたんだとお父さんが、この世にいなくなってから思った。お母さんには、今の幸せがあるからと、あえてお父さんのことは知らせなかった。あまり思い出のないお父さんがこの世を去ってからお父さんが住んでいたアパートの処理をしに、早紀は初めてお父さんの家に行った。



