別れが来るのが怖かった…。遠回しに「今日ミキから久しぶりに電話が来て、タケ君のこと見たっていってたよ」と言ってみる。タバコに火を付け「どこで?」と聞いてくる。内心焦っているのだろうけど、顔は平然としている。「近くのレストランで」平然を装っているタケ君に苛立ち、少し低い声で返事をしてみる。「そう」あっけない返事。逃げ込むように、トイレに入っていくタケ君。早紀はため息一つ。浮気現場を見たことを言ったほうがいいのか、知らないふりをして今の状態を維持していくべきか。迷いに迷って、何も言わず、何も考えないことにした。別れがくるのが、怖かったのに、浮気現場を見てから、タケ君への愛が薄れてしまった早紀。付き合っている意味があるのかと考えてしまうことも多くなった。お母さんに久しぶりに電話をして相談してみる。「タケ君は浮気なんてする人じゃないと思うけどね」タケ君のいい所しか知らないお母さん。「別れても、後悔しない自信があるならタケ君の気持ちも、ちゃんと聞いて、どうするか決めなさい」大人の意見だ。相手がどう思っていようが自分の意志しか考えてなかった。勝手にタケ君を悪者にして、自分は何も悪くないって思い込んでいた早紀。もう早紀は二十五歳。タケ君は三十二歳。二人共、結婚を考える年だ。問題が山積みの今のままだったら、結婚どころじゃない。もうだめかな。浮気されるってことは、早紀に魅力がなくなったり、早紀の愛をタケ君が感じなくなったからだ。ネイルをする手先は器用なのに、恋をする心は不器用な早紀がそこにいる。浮気のことは忘れたくても忘れられないけど、好きなのは変わりない。愛は薄れたけど百二十パーセントだった愛が九十九パーセントになった感じ。長いこと一緒にいれば、苛立つこともあるだろうし、好きで好きで仕方ない時もあると思う。別れたくなることもある。でもやっぱり、今までの人生で何度も思ったこと。時間が解決してくれる。ある時は別れたくなっても、少し、いいことがあれば、やっぱり好きだから一緒に居たいと思って別れを思い止まる。それでいいと早紀は思い、少しづつ大人へと成長していくのであった。タケ君の浮気は浮気で終わった。仕事でトラブルがあって嫌気がさして、気を紛らわせるための遊び。許されることじゃないけど、本気にならなくて良かった。



