今では思い出の一つ。あの時と同じように、お好み焼きやクレープを買って、手を繋ぐこともなくなっていたけど、この日は手を繋いでくれたタケ君。何事にも必ず“慣れ”って訪れるし、付き合い始めた頃はあったものが時間と一緒になくなってしまうこともある。でも、その中には、ちゃんと幸せがある。ただ手を繋いだだけなのに、タケ君の手は温かくて力強くて、心から幸せを感じて笑顔になれる早紀。愛が薄れていくような不安を抱いていた自分がなんだか馬鹿らしかった。長い人生の中に色んな苦難もあったけど、人生の前半をほぼ終えようとしている。専門学校もめでたく卒業の日。「元風俗嬢が…」なんて学校の前で言われてから、噂はテレビのニュースで流したかのように学校中で広まって、白い目で見られた時期もあった。けど卒業の日はみんな笑顔で「おめでとう」と言い合えた。社会人になる意識がみんなも早紀も一歩成長させてくれたんだと早紀は一生懸命日々、生活していて良かったと心から思った。卒業後…。すぐにネイルサロンに就職。ネイルは人の手元を綺麗に輝かせる。自分とお客さんとで一緒に作り上げていく。始めは「思ってたのと少し違う」とかお客さんに言われてしまうこともあった。練習に練習を重ねて一年程で「可愛い。ありがとう」と言ってもらえるようになった。本当にやりたい仕事をできて、ありがとうと言う言葉をもらえて充実した毎日。家事も出来るかぎりこなした。なのに…なのに…。一生懸命タケ君に尽くして、幸せの真ん中に辿り着いたのに。タケ君が浮気している夢をみた。ただの夢。タケ君が浮気なんてするわけがない。そう信じていたのに。女の勘はすごい。久しぶりのミキからの電話。タケ君の浮気を知らせる電話。久しぶりに電話してきたと思ったら、そんな冗談。タケ君と早紀を別れさせようとしてありもしない事を言っているんだ。話しの内容はシンプルでタケ君と女が楽しそうに手を繋ぎなら歩いていたとゆう。馬鹿馬鹿しい。でも夢で見たことも、最近仕事の帰りが遅いタケ君。ミキを少し信じた部分もあった。直接タケ君に聞くのも信じてないのかと言われたら情けなくなるから聞けない。仕事を休んで、ミキの車でタケ君を尾行した。女となんて会わないで、と願いながら。



