博士と渚くん

「あの、本当にありがとうございます」

「あ、いえいえ」

「……」

「……」

一瞬の会話の後、再び沈黙。
気まずい。早く帰りたい。渚くんはいずこ。

夜道を一人で歩くのは到底無理だ。それはまだ怖い。

「あの、ちょっと聞きたいんですけど」

「はい?」

「……大槻さんって、あの大槻唯さんですか?」

「あの大槻がどれかはわからないけど、私が大槻唯であることは確かだよ」

「三年間、テストで一点の失点も許さなかった伝説の人ですよね! うわ、本人に会えるなんて感激!」

「そんな大したもんじゃないよ」

スミレちゃんは目を輝かせる。確かな事実だけど、そんなこと何の自慢にもなりやしない。

テストでいい点なのは、昔から友達がいなくて、遊ぶ時間を勉強に当てていたから。

どれだけ知識があろうと、私は今何の発明も成功していない。
それどころか引きこもりだ。ついこの間、やっと一人で外に出れるようになったレベルの。

つまり、私みたいな頭でっかちよりも、今を楽しく生きるスミレちゃんの方がずっといい生活を送れているということ。