その日は、ふたりでたくさん話した。
私が歌を歌うのが好きなこと、
吹奏楽部でクラリネットを担当していること。
響也の耳が聞こえないのは、
生まれつきじゃなくて六歳のときに急に聞こえなくなったってこと。
耳が聞こえなくなるまでは
響也も歌が得意だったってこと。
『ねぇ、明日も一緒に食べていい?』
私が聞くと、響也は頷いた。
『お前としゃべるの、結構楽しい』
響也は『楽しい』の手振りのまま、ははっと笑った。
その笑顔があまりにも輝いていて、私は不覚にもドキドキしてしまった。
なに、この心臓の音。
ドキドキとうるさい心臓を押さえながら、私は響也と手を振って別れた。


