相田蒼空は、狭いアパートの玄関で大量のダンボールと格闘していた。


まだ家を出てもいないのに、既に汗をかいている。


ぴったりした競泳用水着の上から体操服を着ているので、暑さも倍増していた。


「やっば!練習遅刻するーっ!」


蒼空はあわてて自転車の鍵をつかみ、何とか家を出る。


「行ってきまーす!!」


誰もいない部屋に挨拶をして、勢いよく自転車に飛び乗る。

「間に合うかなーっ」

夏の潮風が、海のそばの長い坂を自転車で駆ける蒼空の髪を揺らす。


肩につくぐらいの髪は、プールの塩素と日差しで茶色くなっている。


五月蠅い蝉の声が、夏の始まりを告げていた。