さて、これで俺は死んだはずだった。


『ふに。』


もう一度言おう。


『ふにふに。』


死んだ「はず」だった。





ここで確認しておく。

俺は瀧口礼央。
極平凡な男子高生。
大好物はコンビニの「でっかプリン」
安くて美味いからお勧めだ。
特技はなし。
運動も勉強も中の中。


当然、ダンプカーに突っ込まれるなんてされたら、命を落とすに決まっている。




が、俺は意識があった。


『ふに』

先程からのこの効果音は、俺の頬に生暖く、柔らかいものが当たる音。


可笑しくないか?


生前、死んだ後は天使か何かが迎えに来ると思っていた。

天国と地獄って言う分かりやすい二つの世界のどちらかに行くのだと。

何もない今、もしかして地獄に落ちてしまったのかもしれない。

信じたくはない。

でも、何もない。ただ頬に重みが掛かっているだけ。


・・・・・・・・・・・・・・。


いや、ない。



『ふに。』



俺は何も悪いことはしていない。たぶん。

何が起こるかわからない。兎に角、目を開けたら負けだ。



嗚呼どうか、どうか神様、地獄だけは勘弁・・・・・・




「死んだくせに、今更神頼み?」

突然聞こえた擽る様な高い声に、反射的に目を開けてしまう。

目の前には、肉吸。

そして、黒い猫。

「君、死んだよ。」

大きな目で見つめてくる猫。

段々と強さを増す頬の肉吸。

「猫、が、喋った。」