桜の花はいつ咲くか





 暫くして、一葉の呼吸が次第に落ち着いてきた頃。


 一葉は小さくすみませんと呟いて、顔を覆っていた手を下ろした。


「ウチには話せへんこと……?」


 女が遠慮がちに一葉へ尋ねると、一葉はもう一度首を横に降った。


「いえ……。 少し、不安になってしまって」


「不安?」


 女が聞き返すのに、一葉は縦に頷いて続けた。


「私、帰る場所がなくなっちゃったから……。 頼れる人も誰もいなくて。 だから、少し心寂しくなってしまって」


 別に女に期待して言ったわけではなかった。


 しかし今まで女の優しい部分を見てきた一葉は、少しでも慰めて欲しいと思ったのだ。


 今はもう思い出すことすら諦めていた、母親のように……。


「そう……」


 そんな一葉の思いとは裏腹に、女は悲しげな顔で一言そう言うと、そのまま俯いてしまった。


 それきり、二人は黙り込んだ。


 一葉はこれからのことを、女は一葉の境遇を思い、心が苦しくなる。


 そうして暫く続いた沈黙を破ったのは一葉の方だった。


「まあ、頑張れば見つかりますよね。 働く所も、住む所も……」


 黙り込む女に、一葉は場を持ち直そうと無理に明るく振舞った。


 しかしそれが強がりだということは声色だけでもわかる。


 女はそんな一葉の顔色を伺うと、意を決して口を開いた。


「なあ、あんさん働くとこもないん?」


 呟かれた言葉は一拍遅れて一葉の耳に届いた。