(退屈……かも)
かもではなく明らかに退屈しているのだが、それは女とお花に失礼のような気がして慌てて後から付け足した。
寝転んでしまおうにも怪我をしているのは背中側で、寝転べば傷が痛むのは考えなくてもわかる。
それならばやはり再び女がこの部屋に来るまでじっとしているしかないのだが、やはり退屈で仕方ない。
「……はあ」
仕方なく諦めた一葉は天井を仰いで目を閉じた。
(……まただ)
一葉は起きてから一人の時間ができるたびに一葉を切った男のことを思い出していた。
あの日、一葉が男に斬られる前。
男は一葉という名前を新しく与え、これからはそれを名乗るように命令した。
そのとき一葉には理由がわからなかったが、今なら少し分かる気がしていた。
一葉が、男との約束を忘れないため。
一葉が周りから偽物の名前で呼ばれるたびに、一葉はきっと思い出すだろう。
(一葉……)
現にまだ誰にも呼ばれておらず、教えてもいない名前を心の中で繰り返していた。
そしてその名前を反芻するたびに、男との約束が映像として一葉の頭の中で繰り返し流れていた。
どのくらいの時間が経っただろうか。
辺りのざわめきは何処へやら、部屋にはすでに人一人の声さえも届いてこなかった。
バタバタと激しく動く足音も聞こえなくなり、一葉はまた一人、寂しい時間を過ごしていた。
完全に静かではなかったから外の声に耳を傾けてみたりと退屈しのぎに徹していられた一葉だったが、今はしんとしていてなす術もない。
