一葉の心配をするよりも女の用事は大切らしく、掛け布団を直した女は慌ただしく立ち上がった。
「お花、あとはあんさんに任せるわ。 一葉はん怪我しとるから、なんかあったら手伝うて差し上げて」
女が言うと、代わりにそばへ寄ってきたお花がこくりと頷く。
女は一葉にほんなら失礼します、と頭を下げ、急ぎ足で部屋を出て行った。
一葉はお客様の扱いなのか、随分恭しい態度に戸惑う。
お花もそうなのかと覗いてみるが、お花は何も言わずちょこんと座っていた。
「えっと……。 お粥、食べていいのかな」
一葉がちらりとお粥に目をやると、お花はまたこくりと頷く。
盆に乗ったお粥を両手で持ち上げ、一葉の目の前に差し出した。
「ありがとう」
にこりと笑ってそれを受け取ろうと手を伸ばす。
「…………っ」
一葉の手が粥に届く前にぴたりと止まった。
(肩、痛い……)
どうやら何も考えず利き手を動かしてしまったらしく、肩にあるだろう傷が悲鳴をあげたのだ。
「…………」
「…………」
予期せぬ沈黙を作った一葉は、慌てて粥を受け取ろうと無理やり右手を動かす。
しかし、突然目先にあった粥がひょいと引っ込んだ。
一葉の右手が空を彷徨う。
「……あ、あれ」
粥を取り上げられた一葉は驚きながらお花の表情を伺う。
「お、お花ちゃん……?」
「…………」
お花は依然無言のままだった。