「ううん……寝たままで食べれるんやろか」


 随分大人の印象を受ける女が、ひとつのことに抱え込んでいる。


 その様子が一葉には可愛らしく思えた。


 ふ、と小さく笑い声を漏らすと、女は一葉を見てぱちぱちと目を瞬かせる。


 そうして思案しているうちに、どこからかとことこと小さな足音が聞こえてきた。


 スッと襖を滑らせる音に、女はゆっくりと振り返る。


「あら、お花どしたか」


 お花と呼ばれた少女は、先ほど女のしていたように正座で顔を出した。


 短い黒髪に花飾りをつけ、自然と目を引く整った顔立ちが涼しい印象を持たせている。


「ウチのこと呼んではるの?」


 女が聞くと、お花は小さくこくりと首を振った。


「随分早ぅおしたね」


 女は一葉を見つめる。


 意を決して一葉に被せた布団をとると、背中に片手を入れ、もう片方の手で一葉の頭を支えた。


「えっ、あの……!」


「自分で起きるよりええやろ思うて」


 女はにこりと一葉に笑い、一葉の身体を一気に起こした。


「ーーわっ!」


「あら」


 思ったより力を入れすぎたのか、女は目を見開いて手を止める。


 ぐんと起き上がる身体についていけず、一葉はそのまま前のめりになった。


「あんさんえろう細いんどすね……」


 堪忍どす、と女は苦笑して一葉の身体を戻した。


 勢い余ったせいで一葉の肩が少しだけ痛む。