女がいなくなって、部屋はしんと静まり返った。
ふわふわと暖かな空気を感じた先ほどとは変わり、今漂う空気は無性に寂しいものだった。
どうやらそれが女の纏う空気のようで、急に冷えた空気が一葉にはどうも馴染めなかった。
一人になると色々と考えてしまうものらしく、ゆっくり蘇る恐怖がさらに一葉の心を冷まさせる。
「嫌だな……」
それは何に対してなのか、小さくポツリと呟かれた言葉は誰に聞かれることなく消えていった。
不意に自然と澄まされていた耳に鳥のさえずりが聞こえる。
白む空気に夜明けを感じ、思わぬところで時刻を知った。
女は一晩ずっと看病してくれていたのだろうか。
今の一葉にはそれが一番の気がかりだった。
「失礼します」
思っているより時間は過ぎるのが早かったらしく、先ほどの女が再び顔を出した。
退室した時と同じ、優雅な仕草で部屋へと入る。
手に持つ盆の上には湯気の立つ皿が乗せられていて、ふんわり漂う優しい香りが鼻を掠めた。
一葉の腹が、思い出したように鳴き始める。
「あっ……」
あまりの恥ずかしさに頬を染めれば、女はくすくすと笑って一葉の前に座ったが、ふと女が固まった。
「そやし、あんさん起きれるやろか」
女は困ったような顔をしてお盆を隣に置いた。
「あんさん怪我しとるみたいやし、あんまり無理はせんといて欲しいんやけど」
(あ、そうか……。 私、あの人に背中を斬られて……)
確かに背中の辺りがズキズキと痛い。
いや、もっと言うと肩のところーー右肩の辺りが酷く痛む。