「もうちょいやから頑張りよし」
「うう……。 ここって料理多くないですか?」
「何言っとるんや。 これくらいやらな儲からんよって」
店先で儲けの話をするのはどうかと思うが、そこが女将の良いところ、というか面白いところだ。
沖田は夢中で話し込んでいる女将と、もう一人、見知らぬ女を見つけて声をかけることにした。
「よう。 その女か? 新入りの看板娘ってのは」
沖田が言うと、その声にハッとしたように顔を上げた女将、香織はぱあっと明るく笑った。
香織は沖田より幾年か上のようだったが、それを感じさせない若さと明るさのある、とにかく歳よりずっと若い女だった。
「沖田はんやない。 最近めっきり顔出さんようなったから、どないしてるんやろ思うてたんどすよ」
「ああ、少しいろいろあってな」
沖田が香織と会話していると、不意に後ろに下がっていた女が目を見開く。
「お、きた……さん?」
「…………?」
沖田はどこかで会ったことがあっただろうかと首を捻った。
そんな沖田を女は変わらず驚いた様子で見ている。
女は口元を抑えると、すみません、ちょっと……と香織に耳打ちすると奥に引っ込んでしまった。
「もしかして、知り合いどすか?」
「いや、わかんねえ」
(なんだ……? あんなにびっくりして)
沖田が不思議に思っていると、香織が嬉しそうに女の話を始める。