一葉は女を見て、可哀想だと思った。


 つい先ほどまで可哀想なのは自分とばかり思っていたのに、すでに可哀想なのは女だと転換されている。


 少し自分を悲観的に見すぎていたようで、一葉は自分ばかりが可哀想だと勘違いしていた。


(ダメだ。 私が一番わかってるのに)


 一葉は可哀想だと思われる自分が惨めだと思っていた。


 今それを女に向けてしまった事に、酷く後悔する。


 女だって、可哀想でも辛くても、今まで強く生きてきたのだ。


「私、頑張ります。 頑張って、たくさん恩返しできるように、たくさん働きます」


 一葉は決意した。


 女が自分に娘を重ねていても、なんとも思っていなくても、なんでもいい。


 今は、女の側にいたい。


 その一心で、一葉は女にはっきりと告げた。


「……ええの? こんな最低な親なんに。 あんさんに、娘を重ねてるだけかも知れへんのに」


 女は拒絶されると思っていたのか、涙ぐんだ目で一葉の顔を覗いた。


 その顔に、今は少しの迷いもないように思えた。


「はいっ、私にもお仕事、手伝わせて下さい! よろしくお願いします。 えっと……」


 一葉の言い淀む様子にふと、自分が名乗っていない事に気がついた女は表情柔らかく言った。


「香織。 ウチは香織言います。 あんさんは?」


「香織さん……。 私は、一葉です。 よろしくお願いしますね、香織さん」


「うん……。 それやったら、あんさん早う怪我直さんなあかんな」


「あ、忘れてた……」


 一葉は香織の切り替えの早さに驚きながらも、微笑む香織に笑顔を返した。