「あの……」


「うん。 なに?」


 一葉は消え入りそうな声で呟く。


 女はしっかりとその声を聞いていた。


 優しい返事に少しだけ勇気が出たのか、一葉は先ほどよりも少し大きめの声で言った。


「どうして、そこまでしてくれるんですか……?」


 一葉の質問に、少しだけ目を見開いた女だったが、女は落ち着いた様子で考える。


「どないして……かあ」


 一葉はこの質問の答えを待った。


 心のどこかに、まだ人を信じていたいという気持ちがあったのだろう。


 しかしやはり、一葉の心には人を信じ切ってはいけないという気持ちが大きかった。


 自分に言い訳のできる答えを女がくれたならーー。


 そう考え、女の優しい答えを待っていたのだ。


 「……ウチにな。 あんさんによう似た娘がおったんや。 でも昔、どうしてもウチの景気が悪うなってもうて、仕方なくあん子を売ってしもうた」


「うっ、た……?」


 一葉は大きな衝撃を受けた。


 女が自分に娘を重ねていたことにではない。


 自分の周りで人を売るという行為が簡単に為されていた事に、衝撃を受けた。


 今まで一葉は周りで人身売買が行われた様子を見たことはなかった。


 一葉は本当にそんな事が行われていると言う事実を、どこか遠くの世界の話くらいにしか思っていなかったのだ。


「あんさんを助けよう思うたのも、もしかしたら、あん子への罪滅ぼしのつもりになっとるんかもしれんなあ……」


 すんまへん。


 女はそう言って、目に溜まる涙を人差し指で拭った。