俯いていた顔を上げる一葉は、問いの意味が分からないといった風な顔をして少しの間黙っていたが、やがて小さくこくりと頷いた。


 女はそんな一葉を見て確信したように、キッと一葉を正面に見ると一葉の手を両手でぎゅっと握った。



「そやったらウチにおり。 な、あんさんやったらウチ、歓迎するわ」


「え……」


 一葉は目をいっぱいに見開き、女を見つめた。


 女は軽い気持ちで言っているのではないことはわかる。


 だが、一葉には負い目がある。


「あ、あの……気持ちは嬉しいんです。……でも」


「ウチやったら駄目なん?」


 しゅんとした顔で女が聞けば、一葉は狼狽えるしかなかった。


「えっ……。 い、いや、そうじゃなくって! あの、これ以上迷惑をかける訳には……」


 一葉は言うと、気まずそうに顔を俯かせた。


「そんなんええに決まっとるやん! それにウチ、お店やっとるんどす。 あんさんがウチで働いてくれたらむっちゃ助かるわあ!」


 ぎゅっと両手に力を込める女に、一葉は戸惑う。


 一葉には会ったばかりの自分にどうしてここまでの事をしてくれるのかが全く分からなかった。


 だから自分に対しての一時的な情か、それともただ単に人手が足りない分の埋め合わせで、それが落ち着いた頃にはまた男のように自分を切り捨てるのではないかと、女を疑っていたのだ。


 気のいい女だとわかっていたのだが、それが本当の所ではどうなのか、今の一葉には推し測ることはできなかった。


 一葉はすでに、人間不信に陥りかけていた。