「やばかった…」
オレは自己嫌悪のため息をつく。
もう少しで、キスをしそうになった。
「まあなあ…でもあれは、水織ちゃんも悪いと思うがね」
達夜が、手を止めて視線を泳がせた。
「あんな顔は…しちゃいけない…」
そう言う達夜の表情に、オレは切なさという感情を見た。

「お前…水織を…」
達夜は少し笑うと、また手当てを始める。
「いや…今回は手を引くよ。お前に張り合ってもいい事ないしな。
それに、あの子は俺の手におえない」
なにが手におえないのかは、語らなかったが、達夜が水織になんらかの感情を持ったことは、判った。
手を引くといわせるだけの、感情だ。

「あれ、無意識でやってんのか?」
「そ。すごいだろう」
「随分と人を引き付ける子だな、お前さんが参ったのもわかるよ」

素早く手当てをし、達夜は立ち上がった。
「早く病院に行けよ。よかったな、彼女が無事で」

ゾッとした。
オレが庇わなかったら、この傷は水織が負ったかもしれないんだ。
オレは照明が倒れてくるのを知っていた。 …水織は知らなかった。
「よかったよ…ほんとに…」
自分を褒めてやりたい、よくやったオレ。


結局、その日のうちに病院にいき、念のためにその夜だけは入院。
水織は達夜に送ってもらった。

後から優に聞いたのだが。
水織は泣いていたらしい。
車の中で…ずっと、泣いて、オレを心配してくれていたらしい。
 
オレは彼女の涙を見てないけど…。
泣かせるたくない。
オレのために泣いたり心配したり…憂いを感じてほしくない。
彼女を守りたいと…そういう生き方をしたい、と心から思ったんだ。

もっといい男にならないと…。
今はまだ言えない。
 「愛してる」と…。