「ど、どうしてあなたがここに…」
郁は驚愕した表情で凍りついた。

ふっ…。

あれから1週間。
ツテのツテをたどって、ようやく入り込めたぜっ。
水織を守るために。

高校の演劇部学校外講師として、部活動に参加する権利を得たのだ!

まあ、昔ちょっと役者みたいな事もやってたし…適当になんとかなるだろう。

水織を守れればそれで万事おっけーだ。

にしても。

こんなに部員が多いとは思わなかったぜ…。
週に1度くらいしか顔を出さないという、顧問の話によると。
1・2年生だけで40人弱。

学校内じゃなくて、外に建ってる合宿所を、練習場として使っているらしい。

それぞれ10人ほどのグループに分かれており、それぞれにリーダーがいる。

普段の練習は、そのリーダーが仕切っていて、大会が近くなると、オーディション制で配役を決めるらしい。
シビアだなあ。

「今日から、講師としてここに来るんだ。よろしくな、曽山クン」
顔を引きつらせる郁。

これで水織に手出しできまい。
郁のみならず、他にも水織を狙うやつがいるかも知れないしな。

さてと。顧問が会議で来れないらしいので、詳しくは部長に聞けといわれたのだが…。
その部長は誰なんだ?

「ええと、こんにちは。講師の松岡さんですよね?」
優しそうな顔をした、ちょっとたれ目の男が話しかけてきた。
「部長の、野坂忍(のさかしのぶ)です」
ペコリと頭を下げる。
ほどほどの優男で、なかなかの好青年だが、オレにとってはあまり好ましくない。

「話は顧問に聞いてます。それと、早坂からも」
水織か。
「バイト先の先輩の方なんですよね」
野坂は、オレを一番広い部屋に案内した。
「女子部員が練習になりませんよ、さっきから騒がしくて…」
「それは…そのうち慣れるだろうさ」