【11月の潜入】


季節の変わり目にやられたか、水織が風邪でバイトを休んだその日。

仕事を終えた事務所には、オレと優。優を迎えにきた達夜。
所長と曽山郁がいた。

「お疲れー」
残務もそこそこに、所長が帰り、郁も帰り支度を終えていた。

「松岡さん」
「ん? なに?」

水織を狙ってると思われる郁。
特別仲良くしてもいないし、毛嫌ってもない。
お互い普通に仕事をしていた。

まあ、大人ですからね。

「ちょっと言いたいんですけど」
口調が少し好戦的になる。

水織の事か…。
意外と外面のいい郁が、こうやってあからさまに牙をむく時は、後ろに必ず水織の影がある。

「迷惑してるんです。これ以上早坂に近寄らないでください。
惑わせたり、しないでください」
くそ生意気に、まっすぐオレを見る。

何かが始まったな、と。
斉藤兄妹が、会話をやめた。

「惑わせる? 惑わせられたら苦労はしないぜ、ボーヤ」
坊やと言われたのが、よっぽどカチンときたのが、郁は一層好戦的にオレを睨んだ。

「早坂が誰を好きだって、早坂の自由じゃないですか!」
それは…いやまったくその通りなんだが…。
「水織ちゃんに、好きな男でもいるって口ぶりだな」
達夜が口を挟んだ。
…それはオレも聞きたい。

「いますよ」

なにい?
あっさりと。
あっさりと言い切った郁に、オレと達夜は少し息を呑んだ。
…が。