「影伊…」
達夜が目を見開いた。

お前を傷つけるだろうから、オレも傷つかないとフェアじゃない。
お前の心の痛みより、痛いはずなんかないけど。

オレはずるい。

「影伊…馬鹿、やめろ」
達夜が、そこらからタオルを持ってきて、オレの手首をつかんで押さえつけた。
「やめろ…もう判ったからっ」

不思議と、痛いとは思わなかった。
大酒飲んでたせいかもしれない。

タオルで止血しながら、グラスの破片を抜いていく。

やり方があざといなんて、自分でもよく判ってる。
だけど。
水織も達夜も。どっちも失わないためには、こうするしかなかった。

親友に、恋を諦めてもらうしか…なかったんだ。

「これ以上深くならないうちに、やめるよ。
俺はお前ほど、のめりこんでないから。
信じてくれるか?」

和らいだというよりは、悟ったような表情の達夜。

ごめん…ごめん達夜。
どれだけ辛いか判っていて、オレはお前に恋を諦めさせたんだ。
痛みを判っているのに。

「けど…これからも相談にはのりたい。
忠告もする。
出来る限り、手を貸す事も約束する。
…水織ちゃんのために…なにかすることくらい、許してくれるだろ?」
「ああ、是非。頼むよ」

グラスの破片を全部抜いて、達夜は軽く笑った。

「無茶するぜ、お前」

ごめん…。
オレ、自分でも止められないんだ。
水織が愛しくて、たまらなくて…誰にも譲れないんだ。
ごめんな…。