「どうしてこんな事聞く?」

真成は、じっと話を聞いていた。
そしてオレを見つめる。
鋭い視線が、オレの心の端の端まで、見逃さないように走っているようだ。

「…あの子は…誰かに守ってもらわなくきゃならない理由があるわ。
それは水織の精神的なものでもあり…肉体的なものでもあるの。
私や家族が、いつも傍にいられない以上、あの子を守る誰かが必要なの。
…あの子を愛してくれる誰かが…ね」

私や家族、といった。
こいつは、オレの知らない水織を。
オレと出会う前の水織を、ああやってずっと守ってきたのだろうか。

「それを…オレに?」
「そうね…。あなたなら、自分の心がすり減っても、精神が病んでも水織を傷つける事はしないでしょうし。
…守り抜くでしょうから」
真成は、また冷く鋭い眼差しでオレを見て、「お願いね」と言った。

おそらく水織の幼い頃から、そうして守ってきただろう役目を、真成は、オレに引き継げというのだろうか。
もちろん、そんなこと頼まれなくても、オレは水織を愛し守っていくのだけど、なんとなく誇らしかったのは事実だ。

…もしもいつか水織が、オレじゃない誰かを選んだとしたら…オレはこの役目を、相手の男に譲らければならないのだろうか。
考えたくない…考えられない。

「水織を…守ってあげてね」
「言われなくてもそうするさ」

水織が守られなければならない理由。
真成は語らなかった。

肉体的な方は…体が弱いのはわかるし、生まれつき貧血だというのを聞いたことがある。
その事だろうか。

そして精神的な方は…。
なんとなくわかる。
ひどく傷つきやすいくせに、自分を守ろうとしない。
自分よりも他人を優先する、致命的なまでの優しさ。
 
オレが知っている人間の、誰よりも繊細で純真…。

きっと、そういう事なんだろう…。