その日の夜。
あんまりオレの家に来たがらない達夜が、珍しくやって来た。

「優から聞いたんだけど…泥沼なんだって?」
「泥沼って…あんなの敵じゃねえ」
くそう、優のヤツ。絶対この状況を楽しんでる!
「同級生なんだって?」
「らしいな」
少なくとも、名前を呼び捨てにするくらいは仲が良いのは間違いない。

あんなに好戦的になるほどに、水織を求める男が、オレの手の届かない学校にいるなんて…由々しき問題だ。
何とかしなければ…。

「しかし、らしくねえんじゃねえの? 機会は何度もあったんだろ?
抱けば女は自分のものじゃなかったのか?」
「いつの話だ」

確かに、そう思ってた頃もあった。
少し甘い顔をすれば、女はオレに好意を持つ。
こっちを向かなかった女なんていなかった。
…んだよ、本当に!

「だってなぁ…風俗が風呂屋だと思ってた女子高生だぜ?
どうやって育ってきたのが理解できん」
「確かにな」
「そんな女抱けるかよ」

しばしの沈黙。

「怖いんだな。嫌われるのが」
…か、核心をつきやがって…。
それと…。

「手が…出せないんだ」
オレはまた、深くため息をついた。

「あの白くて…純真無垢に惹かれてるのに、それを自分で汚すことは、できない」
…抱いた途端に、崩れ落ちてしまうような気がする。
自分が酷く悪者に思えて仕方ない。

受け入れる事も…何も知らないだろう彼女を、騙すように手に入れる。
そういう感情で水織を見てしまうこの気持ちを、恋と言っていいのだろうか。
そんな…そんなことしたくない。
 
「今更ながら…お前ハマったなー。生半可じゃ抜け出せないぜ、きっと」
「抜け出す…? そんなつもりない」
「じゃ、このまま手も出さずに、想いも告げずに、ずっとこのまま見守ってくのか?
そのうち獲られるられるのがオチだ」
「ひとつだけ…方法がある」
達夜は、フンと鼻で笑った。
「あいかわらずの自信家だな」
「オレを好きだと…言わせる!」

難しくはないと思ってる!
あいつにとっての理想に、オレはなってみせる。
絶対に好きだと言わせてみせるんだ。

全部でオレを望んでくれたら。
オレを受け入れてくれるなら。
その時は…。