まあ、なのでオレの気持ちを自分に向かせたいんだろう。
家の中で気を引こうとしているらしい。
困ったものなのだが。
 
水織のことは、隠すつもりはないし…聞かれたら教えてやるつもりだが…。
でも聞かれまい。
 
…と思っていたのだ。


「だから、明日は用事があって…」
明日は。水織とドライブに行くことになっている。
別に苦労して誘ったわけでもないが…水織は、オレのすべてよりも優先される。
 
「来週なら一緒に行くよ」
友達数人と、買い物に行くのに車を出して欲しいとの事だった。
「明日じゃなきゃだめなの。お兄ちゃんと一緒じゃなきゃ駄目なのー。ねえ、お願い!」
大方、友達に車を出すと言ってしまったのだろう。
可哀想なのだが…でも明日は駄目だ。
「ごめん、明日は駄目だよ」
そう言って、杏奈の頭を撫でようとした途端。

オレは驚いた。
オレの手をはねのけ、杏奈が大声で怒鳴ったのだ!

「どうして駄目なの!? 
杏奈が大事でしょ? どうして駄目って言うの?
み、…水織さんよりも、杏奈の方が大事でしょ?
水織さんが好きなの? 杏奈よりも?」
泣き叫ばんばかりに、怒鳴り散らす。
 
…水織の名前が出たな…。
こうやって怒鳴るくらい、杏奈なりに悩んでいたのだろう。
だけど、オレの気持ちは杏奈には向かないし、向けるつもりもない。
隠すすもりも…ない。