【6月の煩い】


「お兄ちゃん」

オレをそう呼ぶのは、たった一人の血の繋がらない妹、杏奈。
今年中学2年の。14歳だ。

家を出たときは、ランドセルを背負っていた妹は、今となっては立派な女…かなぁ。
まだまだ14歳。
…なのだが。

困った事に、妹はオレが好きらしい。
兄としてではなく、女として愛されたいと願っておるのだよ。
それはまあ…困りものなのだが。
兄弟は近い他人っていうしな。うちの場合、本当に血も繋がってないし。

しかし家族であるのは間違いなく。
そのうちこんな不毛な恋も冷めるだろうと考え、放っておくことにしている。
 
どういう理由であっても、杏奈はオレの大事な妹なのだ。
変な男に食べられるよりは、オレを好きでいてくれたほうが、まだマシなのかもしれない。
あくまで、かもしれない! だ。誤解のないように。


その杏奈なのだが。
最近ちょっとおかしい。
 
とにかく家にいる時は、オレの傍を離れない。
部屋はもちろん、風呂まで一緒に入ると言い出す始末。
 
いや、いくらオレでも、14歳の女の子に欲情するかというと、しないと断言したいぞ。
というか、実の妹に欲情できるかっ。

…留守がちな両親もやや心配するくらいの、杏奈の態度。
その理由はわかっている。

水織だ。

帰って来るや早々、オレの態度に何かを感じたのだろう。
最近、学校が終わってから、事務所に顔を出すようになった。
そこはそのぬるい職場なので、誰も咎めないわけで。
   
そこで水織に会ったのだ。
そして杏奈は、恋する女のカンとでもいうのだろうか。
気がついたんだ。
オレが、水織を想ってると。